国際的な薬物政策の動向 22年12月の国連決議と23年8月の国連報告書より


2023/11/29


2023年6月26日の「薬物乱用と不正取引に反対する国際デー」にアントニオ・グテーレス国連事務総長は、薬物使用者への人権を守ることを次のように訴えました。

何千万人もの人々が薬物乱用に苦しんでいます。治療を受けているのは5分の1以下です。

薬物使用者は二重の被害を受けています。第一に、薬物そのものがもたらす有害な影響、第二に、彼らが直面するスティグマ(烙印)と差別です。

薬物使用者は、HIV/AIDSや肝炎のような感染症の治療や医療サービスを受けることさえ、しばしば大きな障壁に直面します。一方、麻薬密売組織は薬物使用者を食い物にし続け、危険で依存性の高い合成麻薬の生産を急速に拡大しています。

今年の「薬物乱用と不正取引に反対する国際デー」は、スティグマと差別をなくし、予防を強化することによって、人々を第一に考える必要性に焦点を当てています。

これは、軽微な薬物犯罪に対する処罰や投獄ではなく、リハビリテーションを重視することを意味します。

予防や治療プログラム、保健サービスの拡大など、薬物を使用する人々の人権を守ることを意味します。

人々の苦しみから利益を得ている麻薬密売人に対する免罪符をなくすことで、同様に人々と地域社会を守ることを意味します。

そして何よりも、政府が率先して行動することです。私がポルトガルの首相であったとき、私たちは、密売人を取り締まり、予防、治療、危害の軽減措置(ハームリダクション)に資源を再配分する一方で、個人的な使用のための薬物所持に対して非犯罪的な対応を実施しました。

その結果、薬物の消費量とそれに関連する感染症罹患率は激減し、警察や税関が押収する薬物の数は増え、そして最も重要なこととして、人命が救われました。今日、ポルトガルの薬物過剰摂取率と薬物使用による死亡率は、ヨーロッパで最も低い国のひとつとなっています。

グローバル・コミュニティとして、薬物乱用、不正取引、そして世界中の薬物使用者が耐えているスティグマをなくすための活動を続けましょう。

https://unis.unvienna.org/unis/en/pressrels/2023/unissgsm1325.html


これらの表明の背景となった22年12月の国連総会決議77/238と、23年8月の国連人権理事会に提出された国連人権高等弁務官事務所報告書「世界の薬物問題のあらゆる側面への取組みと対策における人権の課題」を仮訳しました。

特に国連総会決議(賛成116、反対9、棄権45か国)では、「薬物乱用のない社会を積極的に促進する」という1998年以来、長年使われ続けてきた文言を消去し、人権擁護を強調した文章となっています。(日本も賛成へ投票しています)


<参考文献>

2016年 1998年以来の世界薬物特別総会(UNGASS2016)の成果文書A/RES/S-30/1
→従来の需要削減、供給削減、国際協力の3本柱に、健康、開発、人権、新たな脅威の4本柱を加えた。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=99841

2018年 国連人権理事会決議37/42「人権に関する世界の薬物問題に効果的な取組み及び対策の ための共同コミットメントの実施への貢献」, 「世界の薬物問題に効果的に取組み、対処するための共同コミットメットの実施と人権について」国連人権高等弁務官報告書A/HRC/39/39、国連システム事務局長調整委員会(CEB)にて「効果的な国連機関間の連携を通じ た国際薬物統制政策の実施を支援する国連システム共通の立場」を全会一致で支持
→ この年に初めて国連全体で、実質的に人権擁護と健康対策に焦点を当てた
公衆衛生アプローチが薬物政策の中心となった。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=89565

国連薬物犯罪事務所(UNODC)・世界保健機関(WHO)「薬物使用防止に関する国際基準第2版」→幼児、青年初期、青年・成人期の各段階でエビデンスに基づく予防と政策を示す。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=105664

2019年 国連システム調整タスクチーム「過去10年間に私たちが学んだこと:国連の薬物関連制度によって得られ、生み出された知見の要約」→国連システム共通の立場で分析された報告書。
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=103532

第62会期国連麻薬委員会「世界薬物問題に対処する共同コミットメントの実施加速化の ための国内的,地域的,国際的あらゆるレベルでの活動強化にかかる」閣僚宣言,
国連エイズ共同計画(UNAIDS)世界保健機関(WHO)国連開発計画(UNDP)らが
「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」を発表,
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=103026

国連薬物犯罪事務所(UNODC)が「薬物と持続可能な開発目標(SDGs)の市民社会ガイド」を発表,
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=103112
国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)が
「刑事司法制度に接する薬物使用障害者の治療とケア」を発表
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=109437

2020年 国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)が
「薬物使用障害の治療に関する国際基準(2020年版)」を発行
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=106040

2021年 収監に関する国連システムの共通見解→薬物政策における非犯罪化を提唱.
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=113534


本学会は、大麻草およびカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。

免責事項:和訳はあくまでも便宜的なものとして利用し、適宜、英文の原文を参照していただくようお願いします。日本臨床カンナビノイド学会は、本翻訳物に記載されている情報より生じる損失または損害に対して、いかなる人物あるいは団体にも責任を負うものではありません。


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