Cannabinoids

/ カンナビノイド基礎情報

内因性カンナビノイド系

 体内には、地球上で生きていくために本来備わっている身体調節機能=内因性カンナビノイド系(Endocannabinoid system、略してECS)があります。内因性カンナビノイド系は、食欲、痛み、免疫調整、感情制御、運動機能、発達と老化、神経保護、認知と記憶などの機能をもち、細胞同士のコミュニケーション活動を支えています。
 
 内因性カンナビノイド系は、1990年代に発見された“アナンダミド”と“2-AG”と呼ばれる体内カンナビノイドとそれらと結合する神経細胞上に多いカンナビノイド受容体“CB1”、免疫細胞上に多いカンナビノイド受容体“CB2”などで構成され、全身に分布しています。
 
 最近の研究では、内因性カンナビノイド系は、外部からの強いストレスを受けたり、加齢に伴う老化によって、内因性カンナビノイド系の働きが弱り、いわゆる「カンナビノイド欠乏症」になると、様々疾患になることが明らかになってきました。
 
 これらの作用を利用したカンナビノイド医薬品(イギリスGW製薬のサティベックス)が2005年にカナダで多発性硬化症の痛み改善薬として承認され、てんかん、ガン疼痛、神経膠腫、2型糖尿病、潰瘍性大腸炎、統合失調症などの疾患の臨床試験が進んでいます。
 

カンナビノイドの分類



 由来 植物性カンナビノイド
用途 目的 物質名・商品名
@ハーブ利用

食品・化粧品・嗜好品
セルフケア

健康・美容・生活
Δ9-THC,CBD,CBN,CBG,

CBDV, THCV,CBC,THCA,

CBDA など 104種類


 由来 合成カンナビノイド
用途 目的 物質名・商品名
@試薬 研究
(危険ドラッグ)
WIN 55,212-2、CPシリーズ、

HUシリーズ、JWHシリーズ

など772物質(指定薬物)
A医薬品 治療 マリノール(合成THC)

セサメット(合成THC誘導体)


 由来 内因性カンナビノイド
用途 目的 物質名・商品名
体内で生成・

活性・分解
恒常性維持 AEA(アナンダマイド)

2-AG(2-アラキドノイルグリセロール)

など10種類

 

カンナビノイド・・・薬用植物アサの有効成分

 アサ科1年草の薬用植物アサ(Cannabis sativa L.)には、カンナビノイドと呼ばれる生理活性物質が含まれています。カンナビノイドは、炭素数21の化合物で、104種類あります。その中で、よく知られているのは、マリファナの主成分で有名なTHC(テトラ・ヒドロ・カンナビノール)と精神作用のないCBD(カンナビジオール)です。
 THC及びCBDは、1960年代にイスラエルの化学者メクラム氏によって発見され、ポリフェノール構造をもちます。THC濃度が0.3%未満の産業用大麻と呼ばれているアサの品種にCBDは、1〜15%ほど含まれています。
 日本では、1948年に制定した大麻取締法によって、カンナビノイドを多く含む花穂と葉の利用を禁止しています。また、日本では、大麻取締法第四条によって、医師の交付、患者の施用の両方が禁止されています。
現行法では、茎および種子由来のCBDであれば利用することができます。
 都道府県知事の許可があれば、農家には大麻栽培者免許、麻薬取締官や大学等の研究者には大麻研究者免許が交付され、アサを栽培したり、研究したりすることができます。しかし、これらの免許取得は、厚生労働省の指導や通知の細かい規定をクリアすることが非常に難しいのが現状です。
 
大麻取締法
第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く
 

カンナビノイド(Cannabinoids)

 アサ科1年草の薬用植物アサ(Cannabis sativa L.)には、カンナビノド類、テルペン類、フラボノイド類、フェノール類などを含めて500種類以上のさまざまな化合物が含まれています。その中でもカンナビノイドと呼ばれる生理活性物質は、炭素数21の化合物で104種類あります。よく知られているものは、マリファナの主成分で有名なTHC(テトラ・ヒドロ・カンナビノール)と精神作用のないCBD(カンナビジオール)です
 
 カンナビノイドは、さらに細かく分類すると、Δ9-THCタイプ(18種類)、Δ8-THCタイプ(2種類)CBDタイプ(8種類)、CBNタイプ(10種類)、CBCタイプ(8種類)、CBGタイプ(17種類)、CBTタイプ(9種類)、CBEタイプ(5種類)、CBLタイプ(3種類)、CBNDタイプ(2種類)、未分類なもの(22種類)が存在しています。
 

 

カンナビノイド・・・薬用植物アサの有効成分

THC:Δ9-Tetrahydorocannabinol(Δ9-THC)テトラヒドロカンナビノール
マリファナの主要な精神活性物質であり最も有名な成分です。1964年にイスラエルの科学者メクラム氏によって化学構造が同定された。Δ9-THCタイプとΔ8-THCタイプがあるが、前者の方は精神作用が強く、後者はその25%程度しかない。一般的にTHCというとΔ9-THCのことをいう。マリファナにはTHCが3〜25%含まれ、品種によってその含有量が異なります。THCには痛みの緩和、吐き気を抑え、けいれんを抑え、食欲増進の効果があります。マリファナを吸うとよく食べ物がおいしく感じるのはTHCの効果です。
 
CBD:Cannabidiol、カンナビジオール
THCが0.3%未満の産業用品種に多く含まれており、THCに次ぐ有名な成分です。THCのような精神作用を引き起こさない。海外ではCBDを10%以上の高濃度に含む品種も開発されている。2009年の文献レビューでは、抗不安、抗てんかん、神経保護、血管弛緩、抗けいれん、抗虚血、抗ガン、制吐、抗菌、抗糖尿、抗炎症、骨の成長促進についてCBDの薬効が列挙されています。
 
CBG:カンナビゲロール(Cannabigerol)
植物体内でTHC、CBD、CBCの前駆物質である。主に抗菌作用をもち、炎症を抑え、ガン腫瘍を抑制し、骨の成長促進をすることが様々な研究から明らかになっています。また、イギリスのGW製薬の研究によるとうつ病の治療に有用であることが示されています。
 
CBN:カンナビノール(Cannabinol)
CBNはTHCの分解によって生まれる副産物です。THCの10分の1程度の精神作用がある。痛みの緩和、炎症を抑え、睡眠補助の作用が明らかとなっています。
 
CBC:カンナビクロメン(Cannabichromene)
THCやCBDとは異なる構造をもつ。研究は発展途上だが、疼痛の軽減、炎症を抑え、ガン腫瘍を抑え、骨の成長促進の作用があります。また、最近の研究では神経の新生にも関与していることが示され、神経変性疾患への治療へ応用が期待されています。
 
THCV:テトラヒドロカンナビバリン(Tetrahydrocannabivarin)
THCとよく似た構造をもつが、植物体内ではCBGを前駆物質とせず、別系統のCBGVを前駆物質とします。食欲を抑制し、発作とけいれんを減らし、骨の成長促進を刺激する作用があります。中央アジアやアフリカ南部の品種にこの成分が含まれています。
 
CBDV:カンナビジバリン(Cannabidivarine)
CBGVを前駆物質した精神作用がなく、GW製薬の研究によるとてんかんの治療に有用であることが示されています。野生のネパール種にはこの成分の含有量が高いものがあります。
 
CBL:カンナビシクロール(Cannabicyclol)
天然のアサにCBLを生成する品種があり、精神作用はない。CBLはCBCに対して光や酸化によって生まれる副産物でもあります。薬理作用はまだよくわかっていない。
 
CBND:カンナビノジオール(Cannabinodiol)
CBDから派生した化合物であるが、薬理作用は知られていない。
 
CBE:カンナビエルソイン(Cannabielsoin)
植物体内のCBDAやCBDに対して光や酸化されるとCBEがつくられます。また生体内でCBDの代謝によってもCBEがつくられます。薬理作用は知られていない。
 
CBT:カンナビノトリオール(Cannabitriol)
日本在来種、ジャマイカ種などの天然のアサで生成する品種があるが、植物体内の生合成の経路や薬理作用は知られていない。
 
 

作用機序

 体内には、地球上で生きていくために本来備わっている身体調節機能=内因性カンナビノイド系(Endocannabinoid system)があります。内因性カンナビノイド系は、食欲、痛み、免疫調整、感情制御、運動機能、発達と老化、神経保護、認知と記憶などの機能をもち、細胞同士のコミュニケーション活動を支えています。
 
 内因性カンナビノイド系は、1990年代に発見された“アナンダミド”と“2-AG”と呼ばれる内因性カンナビノイドとそれらと結合する神経細胞上に多いカンナビノイド受容体“CB1”、免疫細胞上に多いカンナビノイド受容体“CB2”などで構成され、全身に分布しています。
 
 最近の研究では、内因性カンナビノイド系は、外部からの強いストレスを受けたり、加齢に伴う老化によって、内因性カンナビノイド系の働きが弱り、いわゆる「カンナビノイド欠乏症」になると、様々疾患になることが明らかになってきました。
 
全身に分布するカンナビノイド受容体(CB1,CB2)

 

内因性カンナビノイド・・・脂質メディエーター

 脂質メディエーターとは、細胞内外の情報伝達をつかさどる生理活性物質であり、局所で一過的に産生され、その場で細胞膜受容体に作用してシグナルを伝え,速やかに分解される脂溶性物質のことです。
 
 内因性カンナビノイドは、”アナンダミド”と”2-AG”がよく知られていますが、現在では同じような働きをすると考えられている物質があと8種類あると考えられ、全部で10種類あります。それらの内因性カンナビノイドは、CB1とCB2 のカンナビノイド受容体以外にも、痛み、炎症、体温の調節を担いトウガラシの辛味成分カプサイシンに作用するバニロイド受容体(TRPV1)、細胞内タンパク質の1つで核内受容体のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(PPAR)、第三のカンナビノイド受容体とも言われているGPR55,そしてGPR119とそれぞれに作用しています。

 
引用:
Endocannabinoids, Related Compounds and Their Metabolic Routes(2014)を改変

 これらの作用機序の全身分布と多様性から臨床応用においてさまざまな疾患に適応すると考えられています。
 

適応疾患

 世界でよく利用されている医学・生物学系の学術データベースMEDLINEによると、1000論文以上のカンナビノイドに関する研究が行われています。この中で、動物実験や臨床試験を実施して論文になったものは、約100疾患あり、それらの論文の信頼性レベルを2013年3月時点で評価したものが下記の疾患リストです。
 
 ★印が3つ以上のものは研究結果のレベルが高く、★印の2つ以下であっても、今後の研究に期待がかかる疾患です。
 

疾患名 研究数 CHI値 評価の平均 CHIスコア
進行性がんに伴う痛み 2 10 5 ★★★★★
皮膚がん(非黒色腫) 2 10 5 ★★★★★
胃食道逆流症(GERD) 1 5 5 ★★★★★
不眠症 1 5 5 ★★★★★
神経障害 - エイズ関連 2 10 5 ★★★★★
線維筋痛 3 14 4.7 ★★★★★
化学療法に伴う悪心・嘔吐(CINV) 24 104 4.3 ★★★★
嘔吐(合計) 27 111 4.1 ★★★★
糖尿病性潰瘍 1 4 4 ★★★★
皮膚炎/湿疹 1 4 4 ★★★★
統合失調症 4 16 4 ★★★★
全身性硬化症 1 4 4 ★★★★
創傷(手術後) 1 4 4 ★★★★
消化管の炎症性疾患(合計) 4 15 3.8 ★★★★
トゥレット症候群 10 38 3.8 ★★★★
脊髄損傷 5 19 3.8 ★★★★
3 11 3.7 ★★★★
掻痒(かゆみ) 3 11 3.7 ★★★★
痛み(合計) 14 50 3.6 ★★★★
不安 4 14 3.5 ★★★
多発性硬化症(MS) 26 91 3.5 ★★★
パーキンソン病 4 14 3.5 ★★★
ぜんそく 7 24 3.4 ★★★
関節リウマチ 3 10 3.3 ★★★
偏頭痛 3 10 3.3 ★★★
肺疾患(合計) 12 38 3.2 ★★★
神経疾患(合計) 69 215 3.1 ★★★
がん誘起寝汗 1 3 3 ★★★
クロイツフェルト?ヤコブ病 1 3 3 ★★★
膀胱炎(間質) 1 3 3 ★★★
HIV / AIDS 1 3 3 ★★★
夜間視力改善 1 3 3 ★★★
つわり 1 3 3 ★★★
神経障害 5 15 3 ★★★
脳腫瘍/神経膠腫/
神経膠芽腫
9 26   ★★★
心臓病 7 16 2.9 ★★★
うつ病 8 23 2.9 ★★★
精神疾患(合計) 24 68 2.8 ★★★
神経保護特性 4 11 2.8 ★★★
皮膚疾患 4 11 2.8 ★★★
筋萎縮性側索硬化症(ALS) 7 19 2.7 ★★★
骨肉腫 3 8 2.7 ★★★
脳血管障害(CVA) 3 8 2.7 ★★★
炎症性腸疾患(IBS) 3 8 2.7 ★★★
肝炎 3 8 2.7 ★★★
炎症性疾患(合計) 17 45 2.6 ★★★
発作(てんかん) 5 13 2.6 ★★★
ウイルス感染症(合計) 12 27 2.6 ★★★
アルツハイマー病 4 10 2.5 ★★
食欲不振/悪液質 11 28 2.5 ★★
高血圧 2 5 2.5 ★★
子宮内膜症 2 5 2.5 ★★
多毛症 2 5 2.5 ★★
慢性非悪性の痛み 2 5 2.5 ★★
鎌状赤血球症 2 5 2.5 ★★
抜け毛/脱毛症 2 5 2.5 ★★
心臓血管の健康 12 29 2.4 ★★
アルコール依存/乱用 4 9 2.3 ★★
心的外傷後ストレス障害(PTSD) 3 7 2.3 ★★
せん妄 4 9 2.3 ★★
糖尿病 5 11 2.2 ★★
産科と婦人科(合計) 5 11 2.2 ★★
緑内障 9 19 2.1 ★★
ジストニア 5 10 2 ★★
ハンチントン病 5 10 2 ★★
エイジング/
アンチエイジング
1 2 2 ★★
関節炎 3 6 2 ★★
アテローム性動脈硬化症 3 6 2 ★★
子宮頸がん 2 2 2 ★★
肝臓癌 2 4 2 ★★
膵癌 2 4 2 ★★
熱性発作 2 4 2 ★★
歯周炎 1 2 2 ★★
性欲 1 2 2 ★★
乗り物酔い 2 4 2 ★★
乳癌 6 11 1.8 ★★
がん(合計) 60 107 1.8 ★★
肺癌 4 7 1.8 ★★
骨粗しょう症 3 5 1.7 ★★
ヘルペス 3 5 1.7 ★★
双極性情動障害(BAD) 5 8 1.6 ★★
甲状腺がん 2 3 1.5
慢性閉塞性肺疾患(COPD) 2 3 1.5
膵炎 2 3 1.5
月経痛 2 3 1.5
白血病 5 7 1.4
大腸癌(大腸) 3 4 1.3
加齢黄斑変性(ARMD) 1 1 1
細菌感染 1 1 1
メチシリン耐性
黄色ブドウ球菌(MRSA)
1 1 1
メラノーマ(悪性皮膚がん) 1 1 1
リンパ腫 2 2 1
前立腺癌 3 3 1
カポジ肉腫 2 1 0.5
横紋筋肉腫 2 1 0.5
自閉症 0 0 0
淋病 0 0 0
出産の痛み 0 0 0
風邪、インフルエンザ 0 0 0
0 0 0
流産 0 0 0
妊娠 0 0 0

 
 
引用:
CHIスコアとは、The Cannabis Health Index(2013)によるもので、効果のあった疾患リストではありません。カンナビノイドの中でTHCおよびCBDその他の化合物も対象とした論文が含まれています。
 

安全性・副作用

カンナビノイドの安全性・副作用(特に有害事象)を議論するときは、医療目的と嗜好目的とを明確に区別することが大切です。

@ 医療用大麻(人道的使用) 用法・用量があり、一定の管理された状態での使用

有害事象が複数あっても治療効果が上回ればよい

A 嗜好用大麻(大人の遊び) ライトユーザー、中程度ユーザー、ヘビーユーザー

どの程度のユーザーで評価したものかを考慮する

アルコール等の他の薬物との比較を考慮する

 

システマティックレビューによる評価

 カナダ医療協会のジャーナルで発表された2008年の研究では、カンナビノイドを治療目的で利用した臨床試験をまとめてシステマティックレビュー(SR)という最も信頼性の高い手法を使って評価しています。
 
 研究方法は、MEDLINE, PsychINFO, EMBASEという学術論文のデータベースから321論文を選び、嗜好利用の290論文を除いて、23論文のランダム化比較試験(RCT)と8論文の観察研究を評価した。選ばれた試験のカンナビノイドの摂取期間は、平均して2週間であり、8時間から12か月の範囲であり、摂取したカンナビノイドの種類は、大麻抽出物とコントロールが9本、THC・CBDの両方とコントロールが6本、THCとコントロールが14本である。コントロールとは、結果を検証するためにカンナビノイドを摂取しなかった対照実験である。
 
 その結果、4779件の有害事象のうち、4615件(96.6%)が重篤な有害事象でなかったのである。ごくわずかな164件(3.4%)の重篤な有害事象は、ほとんどが多発性硬化症の悪化に伴うものであった。治療目的でカンナビノイドを用いたとき、生命にかかわるような重篤な有害事象はほとんどないが、プラセボ(偽薬)のコントロールと比較して、わずかに神経、消化管、精神症状の有害事象が発生することが明らかとなっている。
 

出現部位  カンナビノイドの摂取 4615件 コントロール

1641件
具体的な症状例
 神経症状 1695(36.7%) 513(31.3%) めまい、傾眠、頭痛、知覚低下
消化管症状 758(16.4%) 246(15.0%) 吐き気、下痢、便秘、嚥下障害
精神症状 512(11.1%) 122(7.4%) 多幸感、見当識障害、解離、言語障害、幻覚など
眼症状 106(2.9%) 16(1.0%)  

引用:
Adverse effects of medical cannabinoids ;a systematic review(2008)
 
 

医薬品とハーブ

カンナビノイド医薬品

カンナノイド医薬品には、植物由来のものと化学合成由来のものの2種類があります。
 

植物由来
Sativex(サティベックス) THCとCBDが1:1で混合したもの
イギリスのベンチャー製薬会社であるGW製薬が開発し、2005年にカナダで多発性硬化症の痛み改善薬として承認され、てんかん、ガン疼痛、神経膠腫、2型糖尿病、潰瘍性大腸炎、統合失調症などの疾患の臨床試験が進んでいます。剤型は、舌下吸収によって摂取できるようにスプレー剤であり、1回に100μLが正確に噴射し、1回分はTHC2.7mg、CBD2.5mgが摂取できます。患者の状況によって異なりますが、1度に4〜12回プッシュして摂取します。

 

合成由来
Marinol(マリノール) T合成THC
1986年に発売され、適応症は、エイズ患者における体重減少に関連する食欲不振と従来の制吐剤の治療に適切に対応することができなかった患者における癌化学療法に関連する悪心および嘔吐です。
 
Cesamet(セサメット) 合成THC誘導体
2004年から発売され、適応症は、化学療法にともなう嘔吐や悪心を抑える制吐剤、神経因性疼痛のための鎮痛剤、エイズの消耗症候群を抑制するための食欲増進剤です。

 

ハーブ(薬草)=医療用大麻

 カンナビノイドの利用が合法化した地域では、医薬品としてではなく、ハーブ(薬草)としての利用が一般的で、医療用大麻(Medical marijuana)と呼ばれています。
 
 国際大麻医療学会によって2011年に発表された研究では、953名(男女比65%:35%、31ヶ国)の医療用大麻の入手について@自家栽培40%、友人・知人を含む他の人からの譲渡32%、民間のディスペンサリー(医療用大麻の配給所)19%、製薬会社や政府調達7%、不明2%でした。
 
 摂取方法は、@肺からの吸入(ジョイント・喫煙)が63%、A同じく吸入でベポライザー(気化吸引)が23%、B口から入れる経口摂取(お菓子やケーキ類・チンキ)が8%、その他が6%でした。カンナビノイドの摂取には、血管に直接入れる静脈注射は一般的に行われていません。
 

医薬品とハーブ(薬草)との相違点

 海外において医療目的でのカンナビノイドの利用は、ハーブ(薬草)として利用されています。THCやCBDといった単一成分の利用よりも、ハーブとしての植物エキスの方が、生薬的な相乗効果=薬効があり、副作用が少ないことが挙げられています。学術的には、アントラージュ効果(側近効果)と呼ばれています。
 
 西洋医学を学んだ医療従事者から見ると、カンナビノイド医薬品が市販されているならば、それですべて対応できるように思われがちですが、ハーブの方が、生物学的なメリットに加えて、心理的、経済的および社会生活的なメリットが大きいのです。
 
 

医薬品のメリット

1. いわゆる「ハイ」にならないような製品設計をしている(サティベックスのみ)
2. 細菌・カビ・重金属などの有害物の混入がないよう厳格な品質管理がされている
3. 標準的な治療法が定まっているため医師や患者が扱いやすい
 

ハーブのメリット

1. THCとCBDだけでなく、他のカンナビノイドおよびテルペン類などの有効成分を摂取できる
2. 品種や摂取方法がいろいろあるから楽しめる=患者同士または薬局(ディスペンサリー)の人との会話が弾む=QOL(生活の質の向上)
3. 比較的価格が安い
4. 合法な地域では、自分で栽培・調合・摂取できる=セルフケア&園芸療法効果が期待できる
 
 
 

法制度 海外と日本の比較

 アサに含まれる成分カンナビノイドで、マリファナの主成分であるTHC(テトラ・ヒドロ・カンナビノール)がいわゆる「ハイ」になる精神活性作用があるということで、1961年の麻薬に関する単一条約によって国際的な規制植物となっています。
 
 しかし、歴史的に見ると、国際的な規制を受けるようになった1925年以前には、大麻チンキとして欧米や日本でも医薬品として販売していた実績があります。国際条約が発効されてからの動きですが、1970年代からのマリファナ合法化の草の根運動と人道的使用の観点から医療用大麻の規制緩和を求める声が徐々に大きくなってきました。そして、1996年にアメリカのカリフォルニア州で住民投票によって合法化をきっかけにして、20年間かけてアメリカの半数の州で合法となり、オランダやカナダなどの国レベルで使えるところも増えてきています。
 

法制度 海外と日本の比較
  産業用 医療用(ハーブ) 医療用(Sativex) 嗜好用
アメリカ 2019年〜 1996年〜38州 臨床試験終了 2014年〜
24州合法化
カナダ 1998年〜 2001年〜合法 2005年〜販売 2018年〜
合法
イギリス 1994年〜 2018年〜合法 2010年〜販売 違法
(非犯罪化)
フランス 禁止していない 2021年〜研究 2013年〜販売 2018年〜
(禁錮刑廃止)
ドイツ 1996年〜 2017年〜合法 2011年〜販売 2010年〜
非犯罪化
イタリア 2002年〜 2013年〜合法 2011年〜販売 違法
(非犯罪化)
オランダ 1996年〜 2003年〜流通 2012年〜販売 1976年〜
非犯罪化
ベルギー 1996年〜 2006年〜流通 2015年〜販売 2003年〜
非犯罪化
スウェーデン 2007年〜 ×(違法) 2011年〜販売 × (違法)
スイス THC1%超違法 例外的許可 2013年〜販売 2013年〜
非犯罪化
日本 〇(2025年〜) △(研究可) 〇(治験・承認後) × (違法)

 
産業用:
マリファナの主成分THCが0.3%以下の品種に限定して栽培認可

 
医療用(Sativex)サティベックス:
イギリスGW製薬が開発した植物性カンナビノイド医薬品

 
嗜好用:
非犯罪化とは違法であっても少量の大麻所持は取締対象としない政策のこと

 

75年ぶりに大麻法が改正


日本では、2019年の秋野公造参議院議員(医師)の国会質疑をきっかけに大麻由来の薬物の治験(臨床試験)の道が開き、厚生労働省による2回の有識者会議の議論を経て、第212回臨時国会(2023年12月6日)にて大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法(以下、麻向法)の一部を改正する法律が成立しました。
 
旧大麻取締法(1948年制定)は、花穂、葉、未熟な茎、根を違法とし、成熟した茎、種子を合法とする植物部位による規制でした。法改正では、大麻、Δ9-THC、Δ8-THC、化学的変化により容易に麻薬に生成するもの(例:THCA)を麻向法)を「麻薬」に位置づけました。
 
 
 
大麻を「麻薬」に位置付けたことにより、「麻向法」の下でコデインやモルヒネ等と同じ医療用麻薬の流通管理の仕組みをそのまま使えるようにしました。全国の医師の3分の2が保有する都道府県知事免許の麻薬取扱者であれば、扱うことが可能となったのです。製薬会社が長い時間と費用をかけた臨床試験を経て、承認を受けた医薬品(いわゆる西洋医薬品)であり、医療保険が適用される薬を対象としています。まずは、現在第三相治験が進んでいる抗てんかん薬「エピディオレックス」が、戦後初めて大麻草から製造された医薬品に承認されることが期待されています。
 
但し、この制度では、海外で医療用大麻として流通している代替治療のない場合の人道的使用、生活の質(QOL)の向上、セルフケアとウエルネスのための個人栽培と使用のための「ハーブ大麻」を取り扱うことはできません。「大麻」の定義が「大麻草の形状を有するもの」が規制対象となったためです。
 
そして、旧大麻取締法は、「大麻草の栽培の規制に関する法律(以下、栽培法)」と名称を変更し、産業及び医療用途のための大麻草の栽培に特化した法律へと衣替えをしました。大麻取締法にはなかった目的規定が、「栽培法」には「第一条:この法律は、大麻草の栽培の適正を図るために必要な規制を行うことにより、麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)と相まつて、大麻の濫用による保健衛生上の危害を防止し、もつて公共の福祉に寄与することを目的とする。」と明記されました。
 
食品サプリメントや雑貨として2013年から流通しているカンナビノイド製品(主にCBD製品)は、政令によるTHC残留限度値が定められ、その限度値以下のものであればこれまで通り流通することが予定されています。
 
改正法の付帯事項には「施行後5年を目途に、施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、必要な措置を講ずるものとする」と明記してあります。この付帯事項を活かすために、大麻草を巡る世界情勢の変化をカンナビノイドの専門学会の声として社会的に伝えていく努力を継続していく必要があります。
 
 
日本における広義の医療目的の大麻草の利用(合法:〇、違法:×)
 

 
 
 

用語集

大麻、麻、大麻草、マリファナ、ヘンプ、カンナビス
すべて同じ植物「アサ」のことを指します。アサ科の1年草。
学名:Cannabis sativa L.(カンナビス・サティバ・エル)
 
植物性カンナビノイド Phytocannabinoid
カンナビノイドとは104種類あるアサに含まれる生理活性物質の総称です。
合成や内因性と区別するために“植物性”を付けることがあります。
 
合成カンナビノイド Synthetic cannabinoid
化学的に合成されたカンナビノイド。植物性よりも危険性が数倍〜数十倍も大きく、社会問題になったため、類似する722物質が指定薬物として規制されています。いわゆる“危険ドラッグ”の一種です。
 
内因性カンナビノイド Endocannabinoid
体内で合成されるカンナビノイド。アナンダミド、2-AGなど10種類ぐらいあります。
これらと結合するところが“カンナビノイド受容体”です。この内因性の複雑な働きをまとめて内因性カンナビノイド系(Endocannabinoid system)と呼んでいます。
 
受容体 Receptor
外からの刺激や情報を得るための構造をもつタンパク質。レセプターとも呼ばれます。
カンナビノイド受容体は、神経細胞上に多いCB1と免疫細胞上に多いCB2の2つが代表的です。
 
ヘンプシード・オイル(アサ種子油) Hemp seed oil
アサの種子から取れる油。略して「ヘンプオイル」と呼ばれています。
 
カンナビス・オイル Cannabis oil
アサの花穂の有効成分を抽出したものです。
 
CBDオイル CBD(Cannabidiol) oil
CBD(カンナビジオール)を主成分にした抽出液のことです。
原料部位は花、葉、茎&種子を使います。現行法上、日本では茎と種子由来のものに限定されます。
 
産業用大麻 Industrial hemp
食用や繊維を採る目的で栽培されています。
THC成分が0.3%未満の品種。ヘンプ(Hemp)とも呼ばれます。
 
医療用大麻 Medical cannabis
人道的使用の観点から合法化され、医療目的のために栽培され、使われている大麻草のこと。医療用というと特別なものと思われがちですが、医療用も嗜好用も同じアサの有効成分を活用します。目的が違うだけです。
 
嗜好用大麻 Adults use marijuana
テレビ・新聞・インターネット等のメディアで産業や医療分野があることを考慮して、マリファナ合法化=嗜好用大麻合法化と表記される。
 
カンナビノイド医薬品 Cannabinoid drugs
カンナビノイドを使った医薬品のことです。
植物由来 例:サティベックス(イギリスGW製薬・バイエル・大塚製薬など)
化学合成 例:マリノール(ドロナビノール)、セサメット(ナビロン)(制吐剤、鎮痛剤) 

Cannabinoids Information

Following the description of Japanese herbal medicine, cannabinoids are explained below.

Crude Drugs name: Cannabinoids
Basal plant:
Family; Cannabaceae, Cannabis L.
Binomial name; Cannabis sativa L.
Generic name; Cannabis, Medical marijuana

Parts used:
Inflorescence, Leaves
In Japan, the Cannabis Control Act enacted in 1948 prohibits the use of flowers and leaves that contain many cannabinoids. According to Article 4 of the Act, drugs made from cannabis (flowers and leaves) are prohibited for delivery of doctors and the application of patients.
Cannabis Control Act ; Act No.124 of July 10, 1948
Article 1 The term "Cannabis" as used in this Act means the cannabis plant (Cannabis Sativa L.) and its products; provided, however, that the grown stalk of the cannabis plant and its products (excluding resin.) and the seed of cannabis plant and its products are excluded.
It dose not matter whether the plant contains THC, the law regulates depending on the parts of the plant.A prefectural governor's license "Cannabis Handler" is required for cultivation of Hemp.
Japanese Pharmacopoeia listed: None
However, it was included in Indian Cannabis for 65 years from 1886 to 1951.


Food and drug classification in Japan

Drug:Cannabinoids Drugs, Ex.Sativex
Food:Medical marijuna, CBD oil

Effective component

Cannabis has been found to contain 113 cannabinoids.
Δ9-Tetrahydorocannabinol(Δ9-THC)
CAS Number:1972-08-3
Cannabidiol(CBD)
CAS Number:13956-29-1

property:

Dry flowers have a green and unique sweet smell, but different flavors vary depending on the variety.

Preparation:

Both outdoor and indoor cultivation can be done. In the field, it grows from 1 to 3 meters in 3 to 5 months, and 60 cm after 60 days in the room. The cut flower is dried in a dark place for about 10 days, and then matured for about 6 weeks. It can be harvested from 1 square meter to 4 plants, and about 500 g of flower is obtained, including 5 to 30% cannabinoids. The processing method differs depending on the dosage form, but the plant extract is obtained by alcohol extraction and CO2 extraction.

Dosage form:
There are various methods of intake such as tobacco (smoking), vaporiza (vaporization aspiration), chocolate / cookies (food), chincke / oil, oral spray, capsule, gum, tea, juice, cream, skin patches.

Dose:

Ex.Sativex, 1 time 100μL(THC 2.5mg, CBD 2.7mg); 1 Day 10-30mg The complexity of the mechanism of action is considered to have a large range of individual differences.

Apply:

Pain, depression, hypnosis, appetite promotion, anticancer, intraocular pressure, vomiting, antitumor, anticonvulsant, anxiolytic, and anti-inflammatory Cannabinoid drugs are marketed as pain remedies for multiple sclerosis, and clinical trials for epilepsy, cancer pain, glioma, type 2 diabetes, ulcerative colitis, and schizophrenia are ongoing.

Mechanism of action:

ECS (end cannabinoid system) has body control functions such as appetite, pain, immune adjustment, emotional control, motor function, development and aging, nerve protection, cognition and memory. They support communication activities between cells. Endo-cannabinoids include "anandamide" and "2-AG". There are cannabinoid receptors "CB1" on neurons that bind to them, and cannabinoid receptors "CB2" on immune cells. Receptors are distributed throughout the body. In recent studies, the ECS works weakly "cannabinoid deficiency" with strong external stress or aging. So it has been known to be a different disease.

Adverse event:

In THC, dizziness, thirst, nausea, fatigue, somnolence, euphoria, vomiting, disorientation, lethargy, confusion, confusion, loss of equilibrium, and hallucinations have been reported. In CBD, fatigue and somnolence have been reported.

 一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会事務局
〒216-8511 神奈川県川崎市宮前区菅生二丁目16番1号
聖マリアンナ医科大学脳神経外科学講座内