研究成果:日本初の質的研究が明らかにする 「人はなぜ大麻を吸うのか?」


2025/07/25


ー英国の学術誌『Drug Science, Policy and Law』に論文掲載ー

本学会の理事である正高佑志(聖マリアンナ医科大学・一般社団法人Green Zone Japan)太組一朗(聖マリアンナ医科大学)、赤星栄志(日本大学)、松本俊彦(国立神経精神医療研究センター)らの研究チームが実施した研究論文「Why do you smoke cannabis? Qualitative Interviews of Japanese Cannabis Users」が、英国の学術誌『Drug Science, Policy and Law』に本年7月22日に掲載されました。

本研究は、日本の大麻使用者64名に対する質的インタビューをもとに、使用動機や実態を分析した日本初の学術的試みです。

【研究の背景と意義】

日本では近年、若年層を中心に大麻使用に関する逮捕者数が増加しており、2023年には大麻取締法が改正されるなど、大麻を巡る法制度と社会的議論が転換期を迎えています。しかしながら、国内における使用実態やその動機についての信頼できるデータはほとんど存在しませんでした。本研究では、SNSなどを通じて募った大麻使用者に対し、半構造化インタビューを実施し、その発話記録をもとに、使用開始のきっかけ、継続理由、有害事象の認識などをテーマ別に分析しました。

【主な研究結果】

・使用開始のきっかけは「信頼できる友人・知人からのすすめ」が大半で、背景には心理的困難や社会的孤立が存在。

・使用継続の動機としては、「不安・不眠・慢性痛」などの健康問題への対処や、自己治療、リラクゼーションが多く挙げられた。

・使用者の多くは、大麻を処方薬やアルコールの代替として用いており、いわばセルフメディケーションの手段として機能していた。

・有害事象の報告は限定的であり、「違法性」こそが最大のリスクと認識されていた。

・いわゆる「ゲートウェイ理論(大麻がより有害な薬物の入口になるという仮説)」を否定する声が多数であった。

【研究の意義と今後の展望】

本調査によって日本の薬物教育や政策が描く“依存症予備軍”としての大麻使用者像と、実際の使用者が語る体験の間には、大きなギャップが存在することが示されました。本成果は、医療・福祉・司法などの現場で、より実態に即した政策設計や教育の見直しを行う上で貴重なエビデンスとなることが期待されます。特に、医療的ニーズに基づく大麻使用を違法性ゆえに医師に相談できない現状は、医療安全の観点からも大きな課題であると考えられます。



一般社団法人臨床カンナビノイド学会は今後も、実態に即した科学的知見の蓄積と、エビデンスに基づく制度設計の推進に取り組んでまいります。

【論文情報】
タイトル:Why do you smoke cannabis? Qualitative Interviews of Japanese Cannabis Users
掲載誌:Drug Science, Policy and Law(SAGE Publishing)
著者:廣橋大、正高佑志、三木直子、赤星栄志、太組一朗、松本俊彦
掲載日:2025年7月22日
DOI:https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/20503245251362489
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